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壁づたいに奥へ進もうとすると、段差に躓く。膝と手を地につけた状態になると、ひんやりとした石のような感触が手のひらに伝わった。大理石か。外観からして立派な造りだと思っていたが、相当な豪邸だ。それに、ここはまだ玄関のはずだが、この空間だけでも人一人は住める余裕があるんじゃないだろうか。
「麗さーん」
もう一度呼ぶと、奥から物音が聞こえた。やはり、いる。こちらへ来たくても来ることのできない麗さんの姿が、頭の中にこびりついて離れない。ずんずんと奥へ進んでいく。そこで待っていてくれ、麗さん。すぐに助ける。
と、奥の部屋のドアが軽い音を立てて開く。
「……誰?」
震えるような小さな声が聞こえた。逆光でよく見えないが、顔は俺のへそあたりの高さにある。明らかに麗さんではない。小さい子どもだ。
「誰?」
自分自身も息を呑むと同時に声がもれる。オウム返しというやつだ。いや、考えてもみろ。誰も何も、この家の住人に決まっている。まずいことになった。足がすくむ。麗さんはここにいないのか。
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