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「本当に? お父さんやお母さん以外にも、家には誰もいないのか?」
「はい! 今日はばあばも来ないです。チカだけです」
それは大問題ではないだろうか。無用心だし、このままでは俺のような不審者が入ってきてチカが襲われてしまうかもしれない。いや違うぞ。俺は決してそんなことをするために入ってきたわけではないが。違う意味で不安になる。自分すら信用しきれない自分って……。
「じゃあ、チカはずっと一人で留守番してたのか。偉いな」
「はい! あ、さっきまでソファで寝ちゃってたけど……」
「そうか、だからチャイムが鳴っても出なかったんだな」
「あっ、サンタさん、靴です!」
チカは急に俺の足元を指差すと、慌てて近寄ってくる。テディベアの頭部がくっついたような毛に被われたスリッパが、大理石に擦れてきゅいきゅいと鳴く。俺が無様にも躓いた段差の向こう側を指差したチカは、今にも踊りだすんじゃないかと思えるくらいの興奮状態だ。
「靴はここで脱ぎます!」
「あ、」あまりにも焦っていたせいか、靴を脱ぐというところにまで気が回っていなかった。慌てて咄嗟に片足をあげる。今更足をあげたところで、土足で侵入してしまった事実が変わるわけでもないのに。「悪いな。床が……」
「大丈夫です! 絵本のサンタさんもお家に靴のままで入ってました」
そうか。その情報があったから、俺がサンタだということに真実味が増して興奮したんだな。まずいな。頭をかく。純粋な子どもを騙している罪悪感が胸を蝕んでいくような気がした。
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