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靴を脱ぐために大理石の段差に座ると、すぐ隣でチカがこちらを覗き込む。警戒心はもうゼロに等しい。
……あれ? それにしてもこの邪気のない笑顔。既視感がある。しかし、子どもなんてみんな似たような顔にも見えるものだ。そうではない人もいるかもしれないが、少なくとも俺にとっては。
近所の子どもか誰かに似ているのかもしれない。チカの顔をもう一度横目で確かめる。その瞬間、はっきりと記憶が浮かび上がった。
あの写真の、姪っ子だ。
そうか。この家はやはり麗さんの家ではなく、姪っ子の家ということらしい。
「どうぞです」
麗さんの姪っ子、チカはおずおずと客用のスリッパを差し出していた。躾が行き届いている。
「サンタさんも一緒にご飯作れるですか?」
敬語はところどころ間違えているが、四歳でこれだけ他人に気を遣えていれば百点満点、いや、百二十点をもらえるレベルだ。
「晩ご飯、チカひとりだけで作ってたのか?」
「はい! でもまだ途中で……」
スリッパに履き替え、チカが居た部屋へ足を踏み入れると、玄関に負けず劣らず広い空間が広がっている。少なく見積もっても四十帖はありそうだ。部屋の真ん中に置かれたガラスのテーブルには、パンやハム、チーズが並んでいる。おそらく、材料を並べて作ろうとしているうちに疲れて眠くなってしまったのだろう。
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