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「ばあばはようじ。ね?」
チカは自分に当てられたメッセージの部分を指差した。
「本日はお休みをいただきます」の文章は、決して家族に宛てる言葉ではないと考えられる。恵里と呼ばれるこの人は、チカの本当の祖母ではなく家政婦的な存在なのだろう。それにしても、電話が繋がらないから手紙って。両親が帰って来られないこの家に手紙を書き置いても意味がないだろうに。一体いつの時代の婆さんなんだ。無責任にもほどがある。
「そうだな。ということは、チカは十二時過ぎまで一人で家にいるのか?」
「ん? んんー?」
手紙の上の部分は読めていないのか、チカの反応はいまひとつ判然としない。
「この手紙には、お父さんとお母さんが夜中まで帰ってこないと書いてある」
「……え?」
父親と母親の帰宅はそろそろだと待ち望んでいたのだろう。笑顔だったチカの表情が暗く陰る。
「でも、チカお掃除もご飯もして良い子だったから、早く帰ってきます」
すがるような目で見つめられても、この事実は変えようがない。
「うーん。……チカは確かに良い子だ。でも、お父さんとお母さんはまだ帰ってこない」
今にも泣き出しそうな顔に、困り果てる。泣きたいのはこっちだ。数時間歩きまわってやっと見つけた家には、麗さんが居ないどころか一人で放置された子どもがいる。こんな状況では、帰るにも帰れない。
俺は、覚悟を決めてチカに言った。
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