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「……だから、代わりにサンタさんが来たんだ。今日はばあばの代わりに一緒に居ることにしようと思ってな」
「えっ。ええっ? ほんとうに?」
チカは目を丸くする。表情の変化がめまぐるしい子だ。
「本当、本当」俺は深く頷くと、直ぐに眉をしかめた。「あー……でも、この秘密だけは絶対に守らないといけないんだった。チカには守れるかなぁ?」
「守ります。秘密にしますっ」
まだ何の秘密かを明かす前から、チカは真剣に小指を立ててこちらへ向けてくる。俺は一層声を落としてチカに囁いた。
「実は、サンタさんは大人には見えないようになっているんだ。大人はサンタさんが本当にいるってことを知らない。だからチカには、お父さんにもお母さんにもばあばにも、俺が家に来たことを秘密にしておいてほしい。もしも秘密がバレたら、サンタさんのことが見えるようになってしまう。そしたら、もうこの家には来られなくなってしまう。……分かるか?」
はっ、とチカは息を飲む。
「そう。バレたら、クリスマスのプレゼントも渡しに来られなくなってしまうんだ。……秘密、守れるかな?」
ブンブンと首を縦に振る小動物のようなチカと、小指を絡めて約束を交わす。
「よし、交渉成立だ。そうと決まれば、なんでも任せてくれ」
諦めて上着を脱ぎ、鞄をソファに投げ捨て、腕まくりをする。こうなったらやってやろうじゃないか、家政婦の代わりを。
部屋を見回し、キッチンと思わしきスペースを見つける。寒い夜だ。こんな夜は温かいスープでも作るに限る。
さっさと作って、さっさと食べて、さっさと寝かしつけて、さっさと家を出ることにしよう。遠慮なくずかずかとキッチンへ進む。そして、キッチンへ入ってすぐに、動きを止めた。
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