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「……これは」
殻が割れて中身が溢れ出した卵、こぼれた小麦粉、人参、むしり取ったほうれん草や白菜などの残骸に、鍋からこぼれた牛乳。様々な材料が散乱している。その上、流し台には泡だらけになった食器とスポンジ、フライパン。局所的な台風が通り過ぎていったようにもとれる図だ。
「これ全部、チカがやったのか?」
「できると思って……」
なるほど。母親が帰ってくるまでに一人で家事をしようと奮闘した跡だったのか。その光景に涙ぐましくなってくる。本当に、何というか。健気な子だ。
「チカ……ラーメン、食べに行くか」
「えっ? ラーメン!?」
「この近くに美味しい店があるんだ」
さすがに荒れすさんだキッチンの片付けまでは面倒を見切れない。残された時間はわずかだ。俺は一気に食事作りから外食へと舵を切った。チカはというと、まるでラーメンを食べたことがないもののように驚いている。
「よーっし、じゃあ、60秒待ってやるから、外に出られるようにあったかい格好をしてくること! いくぞ、いーち……」
「わ、サンタさん、待って待って!」
慌てて駆け出す後ろ姿を見ながら、近くの革張りのソファに腰掛けた。まさかこんなことになろうとは。深く息を吐く。目の前が暗くなっていった。
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