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彼女、仲井戸麗と出会ったのは、今年の夏、七月のことだった。
仕事の昼休憩中にふらりと入ったカフェで、その名前の通り麗しい彼女の読書姿に一目惚れした。しかも、たまたま居合わせた素行の悪い不良に彼女が啖呵を切ったものだから、その凛々しい姿に後押しされて、いつもなら腹の底に引っ込んでしまう勇気が口から飛び出てきたのだった。
「あなたのことが好きです。付き合ってください」
結局、その場は「お友達から」ということで、連絡先を交換するに至った。玉砕覚悟だったのに、驚きだ。
さらに、その後もまめに連絡を取り続け、ついに先々月の九月。忘れもしない八日、金曜日。念願叶って付き合えることになった。それなのに。
俺は公園のベンチに力なく腰掛ける。終わりってこんなにもあっけないものなのか?
公園で遊んでいた子どものボールが転がってきて、俺の足元にぶつかる。
「ゆうくーん、帰るわよぉ」
母親らしき女性の声が遠くから聞こえる。俺がゆうくんならば手を握って家へ帰るところだが、ゆうくんではないため、ただ冷たいベンチに座り込むしかできなかった。
そのまま、日は暮れていった。
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