2 出会い

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2 出会い

 五時。近所の小学校のチャイムが公園まで届く。その音で、俺の意識はこちら側へ戻ってきた。ずいぶん時間が経っていた。目は開いていたのに何も見えていなかったような感覚だ。公園にはもう誰もいない。立ち上がると、ずっと同じ姿勢で固まっていたせいか、体中の筋肉の動きがぎこちない気がした。  耳の奥で麗さんの声がリピートされる。別れてほしいの。別れてほしいの。別れてほしいの。別れてほしいの。今まで見えていた未来が見えない。目の前に壁が現れてどこへも行けない。一体、俺の気持ちはどこへ持っていけばいいのだろう。判然としないまま、ずっと握る人のいない暗闇に自分の手を差し出している。  呆然とした脳のままで立ち上がり、歩き出す。握ったままの鞄の中には、麗さんに贈るはずだったネックレスとベークドチーズケーキが入っている。こんなもの、持っていても仕方がない。とりあえずゴミ箱にでも捨ててしまおう。  鞄を開くと、ケーキ箱の隙間に挟まってチラシが入っているのに気づいた。箱と一緒に取り出す。いつ入れたのか全く覚えがなかった。宅地販売。近くにある住宅街の空き家へ入居を勧誘するチラシだ。住宅……確か、麗さんはこの辺りに住んでいると言っていた。  そうだ、別れた理由を聞いてないじゃないか。
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