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「ちなみに今後、お1人で本を出される予定はございますか?」
「ないですねー。俺たち、1人1人は大したことないんでコンビで活動しないと面白いもの作れないと思うんですよ」
「それは言えてるな。俺がついつい守りに入りがちなのを、大成が『そこは違うだろ』って引き戻してくれるし、大成が突飛すぎる展開にしたときは僕が薄めるし、今後もそんな風にバランスとりながらやっていくつもりです」
1人1人の力は大したことがない。今回の合作はそのことを心底痛感させてくれた。改めて思い出させてもくれたのだ―――俺はずっと、大成の常識に囚われない発想力やアイデア力が羨ましくて仕方なかったこと。
だからあの勇者の命運を無理やり委ねてしまった。俺が自分で幕引きをするより、大成に任せた方がいい物語になりそうな気がして。
きっとこれからもこの点では大成に敵わないだろう。今ならそれでいい、寧ろ誇らしいとすら思える。幸いなことに俺たちは、力を合わせて1冊の本を生み出すということに情けなさや恥を感じる部類の人間ではないようだから。
「次作については構想はあるのでしょうか?」
「ありますよ。エッセイにするつもりです。平たく言うと『成功と幸せは別物だけど、諦めずに欲張りゃ両方手に入ることもあるよー。俺たちの場合はこんな風にしました、そのコツ教えますー』って感じの内容かな」
まだ半分も完成していないのにそこまで教えてしまっていいのか、と焦っている間に大成は「タイトルももう決まってるんですけど」とまで言い出した。ぜひ、と鼻息荒く請われては引き下がれない。
そっと額を押さえた俺の横っ腹を肘で突き、大成は「せーの」と合図を出してきた。乗りかかった船だ、行くしかない。
「「『成幸のススメ』です」」
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