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なのに、最後の最後で兄貴が俺に結末を決めさせようとしてきたせいで、俺は初めて「見え方」を気にしてしまった。「どんな結末にするのがベストか、成功か」という打算的な考え方が入りこんできたのだ。
今にして思えば、俺はそのとき「大人の階段を上った」。喜ばしい変化といってよかった。ただ当時は混乱の極みで、「自分が書き始めて、3年以上もかけて丁寧に紡いできた物語なのに、よりによって一番大事なところをどうして丸投げしてくるのか」としか思わなかった。
「今なら恋人を取って、魔王の下で適当に働いて、世界を別角度から救う道を選ばせるけどさ…俺、相当マジメに悩んで悩み抜いて、それでも決められなかったから泣く泣く打ち切ったんだぜ?」
「え、そうだったのか…そりゃ悪いことしたな。けど、それなら『どちらも選ばない』っていう結末にしてくれたってよかったんだぞ。そうしたら勇者の人間らしさが滲み出た物語になってたはずだ」
「世界も恋人も放り出して、自分も死ぬか闇堕ちするかしてバッドエンドまっしぐらってか? まあ、勇者のくせしてあいつ、色々悪行の限りを尽くしてたし…ちょうどいい末路だったかもな」
「それはお前のせいだろ? 魔王の手先から救った村の娘全員を嫁に取ろうとするとか、死ぬ気で手に入れたばかりの大事な宝玉を割ろうとするとか、『仲間にしてくれ』って言ってきたキャラクターをはね除けるとか、もう訳がわからないのなんの…フォローが大変だったな」
兄貴は当てつけるように溜め息を吐いたが、唇はゆるゆるだった。苦労していたのは本当だろうが、それも含めて楽しんでいたということだろう。俺だって、自分でも引くくらいの暴投をした後、兄貴がどう軌道修正してくるかを毎度楽しみにしていたから。
幼い頃の“陽の記憶”を取り戻した体が興奮で震える。ああ、このわくわく感! たまらない、今すぐ筆を執りたい! 許されるならここで二徹でも三徹でも、未知の領域、五徹でも喜んでしよう。
「なあ、兄貴! あのとき書いてたバカみたいな物語、今の俺らの実力で書き直せないもんかね? 今更だけど完結させたくなっちまってさ」
「あれを単に書き直すだけじゃ面白味に欠けないか? ありきたりな冒険ファンタジーだったし」
「ならいっそ、全部を物語にしてみようぜ? 今俺たちがしてる、この会話も含めてさ!」
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