To be continued.

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To be continued.

 時折相槌を打ち、テーブルの向こうで必死にメモを取っていた女性記者が「ふう」と一息吐いた。 「なるほど、それがこの『兄と弟の交換日記物語』誕生秘話ですか…本の内容そのままですね」  俺の右隣の席に座り、ビジネススマイルというよりは素の笑顔に近い柔和な笑みを浮かべている大成が「一気に色々話してすみませんでしたね」と彼女に水をすすめる。  取材が始まってもう1時間か。写真は撮られるし、録音はされるしで緊張しっぱなしだから俺はそろそろしんどいが、大成はケロッとしている。 「面白くなるように脚色してるところもありますが、途中まではほぼ実話です。『兄』視点は俺、『弟』視点は大成が書きましたし…まあ、散々赤を入れ合っているので、色々まぜこぜですけど」 「そうなんですね! 私も3回ほど読ませていただきましたが、まさに『交換日記』という感じで、ちゃんとお2人が交互に書かれているんだなというのがわかりました」  にっこりと微笑んだ記者に慌てて頭を下げる。2人で書いたことの意味が伝わってくれていて嬉しい。  ちょうど半年前の今日、俺と大成はここ「ハーミット」でいつものように飲んでいて、ひょんなことから昔やっていた交換日記の話になった。それまで十数年、嫌がられるんじゃないかと思って何となく触れられずに来た話題だったが、まさかそれが発端となって物語が1つ生まれるとは。  全てを物語にしよう―――そんな提案をしてきた大成は、それから1日もしないうちにプロットを送ってきた。俺たちをモデルにした、ほぼノンフィクションといっても過言ではない物語の。  小説家を志しながら長いこと燻り続けてきている兄弟が、幼い頃に自分たちが交換日記で描いていた物語を書き直して小説コンテストに応募するも入賞できず、最終的には「兄」が「弟」のゴーストライターになることで兄弟は空虚な名声を手に入れるが、やがて兄弟間で軋轢が生じ、「弟」は「兄」を手に懸けてしまう、というのが大筋だ。  大成が説明した通り、1章ごとに「兄」と「弟」の視点を入れ替えることで、それぞれの苦悩を克明に書き出している。「兄」が「弟」に対して感じているコンプレックスや劣等感については、俺が大成にかつて抱いていた感情をそのまま書き表したから、かなりリアルだ。
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