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「結末については賛否両論ですね」
「各所で議論していただけているようで光栄です。あのとき兄貴が俺の『冗談』を笑い飛ばさなかったら、っていう現実に限りなく近い『if』を描いてみました」
「大部分がノンフィクションなので、細部までリアリティーを大切にしようということで…だから書くに当たってあれこれ議論を重ねたし、取っ組み合い寸前のケンカもしましたね。『お前のこういうところが昔から気に食わなかった』とか何とか」
「40のおっさんが、いい年してやることじゃねえよなあ」
不ぞろいに頷いた俺たちを見て、記者は熱心にペンを走らせている。調子に乗って色々話してしまったが、変なことを書かれやしないだろうか。
「文豪兄弟」という強気のペンネームでネットの長編小説コンテストに応募し、賄賂や忖度といった話もなく大賞に選ばれ、先日の授賞式で初めて俺たちの正体が発覚してからというもの、連日あちこちのメディアに取り上げてもらっているのだが、どの記事もかなり尾ひれがついているので気が気でない。
大成曰く「面白おかしく書いてもらった方が話題が広まって売れる」とのことだが、俺としてはもう十分だ。想像したこともない部数が刷られると聞かされていて怖さすら感じている。ただ、多少のことには目をつぶらねばとも思っているが。
出版社との交渉事は全部大成が引き受けて、構成にほとんど口出しをさせないように取りはからってくれているし、俺が自分の小説サイトのために割く時間も確保できるように配慮してくれているようなので、感謝を込めて、ということで。
何よりもやっぱり、大成と力を合わせて物語を紡ぐのは純粋に楽しいから。
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