重なる熱

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「どうした。嫌か?」  体が急に硬くなったことに気付いたのか、将軍が息の触れる距離で問いかける。  千織は首を振った。 「いえ、あの、声が」  小声で千織は将軍に訴えた。 「扉の向こうに聞こえてしまいそうで――」  切羽詰まった言葉に、将軍が小さく笑い声を上げた。 「そうか。千織は声を聞かれるのが嫌だったのだな」  ふふっと笑った後、将軍は腕を解いて、ちゅっと小さく唇に触れた。 「なら、千織の悩みを解決してやらねばな」  するりと身を離すと、そのまま将軍は扉へと向かった。  手ずから扉を開き、その前に控える兵士たちに 「今夜は警備の任を解く。朝まで誰もつかなくていい」  と涼しい声で告げているのが千織の耳にも届いた。  兵を扉の前から去らせた。  初めてのことだった。  驚きに目を見開く千織の側に、扉をそっと閉めると将軍が大股に戻ってきた。 「これで大丈夫だ、千織」  明るく告げる将軍に 「で、ですが伽螺様――よろしいのですか」  と思わず千織は問い返してしまった。  以前千織に渡してくれた手紙に、かつて命を狙われていた関係で、兵が護る扉の内側で眠るのが常だったと書かれていた。  それはきっと、今も続く習慣なのだろう。  将軍はふっと微笑んだ。 「大丈夫だ、千織」  再び頬に手の平で触れると、将軍が呟いた。 「もし何かあっても、千織が俺を守ってくれるからな」  はっと見上げると、将軍は愛しげに笑みを深めた。 「千織が側にいれば、それだけで安心だ」  将軍の言葉が――  深く千織の胸を揺さぶった。  将軍を守りたいと願う言葉を、信頼してくれている。  そんな風に思えたのだ。 「伽螺様は、私がお守りします」  懸命に誓うように千織は告げる。 「ずっとお側にいます」  そのためになら、どんな茨の道でも歩いていける。  将軍の身を自ら腕を伸ばして抱き締めながら、千織は心に呟いていた。 「千織」  同じ強さで抱きしめ返し、将軍が耳元で囁く。 「俺の側を離れるな」    言葉の後、再び唇が重ねられた。  熱が身の内側にともる。  かつてないほどゆったりと長く熱を触れ合わせたのち、将軍が小さく呟いた。 「寝台へ行こうか、千織」    
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