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見つめる千織の髪を、ゆっくりと撫でながら
「その時、夫婦は仲良く手を繋ぐことも重要だが、もっと大切なことがあると俺は言ったが……」
とやや言いにくそうに将軍が呟く。
「はい。伽螺様が教えて下さったことを、憶えております」
千織はきちんと将軍の言葉を理解していたと伝えるために、懸命に言葉を絞った。少しでも将軍の心配を和らげたい一心だった。
「女性の身体の中には赤子を授かるためのお部屋があって、そこに……」
ちょっと口ごもってから、頬を染めながら続きを口にする。
「あの、夫となる人が子種を……注ぐと……」
小声で早口に伝える。
「赤子が授かるのですね」
千織が言い切った後――
黒い瞳に千織を映して、しばし将軍は無言だった。
沈黙の後、なぜか少し困ったように将軍が微笑む。
「その通りだ、千織。一度で良く覚えられたな」
「はい。伽螺様が丁寧にお教え下さったので、とても理解しやすかったです」
それにしても、どうして急に夫婦のことを持ち出してきたのだろう。
千織は将軍の意図を量りかねてわずかに首を傾げた。
「――千織」
ゆったりと髪を撫でながら、将軍が静かに呟く。
「夫婦や伴侶は……互いを大切に思い合う心も、もちろん大切なのだが……実のところ、それだけではないのだ」
将軍が何かを自分に伝えようとしている。
感じ取って、千織は真剣にその言葉に耳を傾けた。
「はい、伽螺様」
聞く態勢に入った千織を前にして、妙に将軍は話しづらそうな様子だった。
「千織が言っていたように、同じ布団に共寝するところまでは正しい。その先があると、あのとき、俺は言ったが。実は――」
「はい」
力強いうなずきと共に、一言一句聞き逃さないように気を張りながら将軍を見つめる。
真面目に知識を得ようとする千織の眼差しを受け止めながらも、将軍はなかなか続く言葉を口にしなかった。
何かを言いかけたのに、不意に口を閉じたのだ。
沈黙の中で、ただ、ゆったりと大きな手が千織の髪を撫で続ける。
いつもならすぐに教えてくれるのに、今は何かをためらっているようだった。
どうなさったのだろう?
疑問を滲ませながら真っ直ぐに見つめていると、将軍がふっと視線を逸らした。
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