交わし合う心の内

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 母と慕う人に、拒まれる辛さは千織も知っていた。  想いが溢れて身が震える。  新しい涙が目に滲んできた。 「だが、このシヅマの領主の館で千織に出逢い、少しずつ、自分の中の何かが変わっていった。俺は、誰かと寄り添って眠る温もりと喜びを、初めて千織から教えられた」  ふっと笑いの息がもれる。 「一人、刺客に怯えながら眠る夜は、安らぎからは程遠い時間だったからな」  針で刺されるように、千織の心がちくちくと痛んだ。  どうして黒龍の主であるだけで、こんなに辛い思いをしなくてはならないのだろう。  押し付けた将軍の黒衣に、涙が染み込んでいく。 「民のために一人で館に残った千織を、アガツ国で幸せにしてあげたい。最初はそう考えていた。だが次第に、千織の幸せを、側で見守り続けたいと思うようになっていた。この子の側で笑っていたい。くるくると変わる表情をいつまでも眺めていたい。いつの間にか、願いは切実なものへとなっていた。  俺は」  小さく呟きがこぼれる。 「初めて、自分から誰かを欲した」  胸の奥で、何かがことんと音を立てたような気がした。  自分の思っている大好きとは、少し質の違う想いを将軍は傾けてくれている。  もっと深くて激しくて、身を切るほどの切なさを持つ感情だった。 「俺が伴侶になりたいと願ったのは、千織だけだ。一生それは変わらない」 「私もです」  何とか将軍の想いに応えたくて、千織は言葉を絞っていた。 「伽螺様だけです。伽螺様だから伴侶になりたいと心から思いました」  ふっと将軍が笑ったような気がした。
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