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夜の探索
冬は、晴れた日のほうが夜は凍てる。
戸口を見守る門真の身体は、夜気でしんと冷え始めていた。
領主の館にはいくつか出入り口がある。
最も格の高い本玄関の他、家人が普段使用する脇玄関、廊下から中庭に出る沓脱石。それと、厨房に続く勝手口だった。
本玄関は、常に兵士が立って出入りを見張っている。
脇玄関は、本玄関からさほど離れた場所にないので誰かが通れば必ず兵士の眼につく。
そうなれば、残されるのは中庭に出る沓脱石か、勝手口。
だが冬のこの時期、吹きさらしの廊下は夜になると雨戸が締められる。夏は涼をとるためにも開け放たれていることも多いが、重い木造りの雨戸で閉じられた廊下からは、外に出ることが難しい。
となれば――
残るは、勝手口だった。
調理を担当する炊事兵たちは、益生之司匡晃の部隊に所属している。彼らが寝起きをしているのは、セムラ通りだった。
アヤニナ通りには、炊事兵たちはセムラ通りから通っているのだと、門真は久礼野から情報を聞き出していた。
この夜も、夕餉の片づけと明日の準備を終えた炊事兵たちは、次々に勝手口から兵舎に向けて戻っていく。
門真は植込みの影に身を潜め、静かに厨房の灯りが消える時を待っていた。
恐らく。
人気が無くなった頃を見計らって、千獣部隊内部の裏切り者が動くだろうと予想していた。
刺すような冷気に耐えながら、門真はじっと勝手口を見つめ続ける。
その裏切り者が曲利であることを、半ば確信しながらも、決定的な証拠を求めてひたすら忍び続ける。
小半刻ほどしたとき、門真が待ち望んでいた時が訪れた。
厨房の中から漏れていた灯りが動き、闇が部屋の中に広がるとともに、勝手口が開いた。
灯りを手にした炊事兵たちが二人、慣れた様子で戸口から出てくる。
「役目を代わってもらって、すまないな」
息をひそめる門真の耳に、詫びのこもった音調の声が響く。
「いいってことだ。戻っても寝るだけだ。それなら夜の散策も悪くはない」
門真は詫びに応えた声に、ぴくっと思わず反応してしまった。
植え込みにひそめていた身をそっと動かし、様子をうかがう。
間違いなかった。
淡い光の中に浮かぶ姿は、門真の良く見知った者だった。
駒津だ。
どうやら駒津は、何らかの役目を引き受けて、これからシヅマの街を移動するらしい。それだけのことを了解すると、門真は再び身を沈めた。
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