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「寒いのに――」
まだ気の毒がる相手に、駒津が軽く笑って答える。
「戻ったら、真っ先に湧き湯に飛び込むからそう気にするな。ここの湯は実に温まる」
それで相手も納得したようだ。
しっかりと勝手口を閉めると、二人並んで歩き出した。
門真の胸がざわつく。
自分が待っているのは、曲利が動く瞬間だった。
駒津ではない。
だが――妙な引っかかりを覚える。
何らかの意図があって、駒津は誰かが受け持つはずの役割をあえて代わったのかもしれないという予感がした。
どうする。
迷いながら、門真は闇に包まれた中、ゆっくりと身を起こした。
勝手口からは、正面の玄関からの道とは違う、細い抜け道が厨房の者たちのためについていた。買い物をして、戻ってくるのに便利なようにつけられた道だ。二人は気楽な話を交わしながらその道を歩んでいく。
門真はもう一度、勝手口を見た。
そこから出てくるはずの曲利の姿を思い描く。
再び、緩やかな坂道を下っていく炊事兵二人の背を見てから、門真は動いた。
駒津の動向が気にかかる。
曲利のことはひとまず保留とし、彼の後を追うことに心を決める。
*
二人はしばらく並んで歩いてから、坂を降りきったところで左右に分かれた。
じゃあ、頼むな、という声に、駒津がおお、と明るく応えて道を違える。
門真は家々の影に身を潜めながら、駒津の背を追った。
駒津は手に、灯りの他に何か包んだものを携えていた。
何を持っているのだろう。
そして、どこへ向かうのだろう。
門真は考えながらも、注意深く駒津の後を追った。
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