千織が眠る間に Ⅱ

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 将軍は考え込んだ。 「ならば、駒津の伝言を受け取る先に居るのは、シヅマの者だろうな」 「ほぼ間違いないだろう。駒津は、計画が狂ったことを急遽伝える必要に迫られたのだと思う」 「ということは、北に貴透の配下が忍ばせてあるということだな」 「夜だけかもしれない。それに、シヅマの街の周囲は人家もなく真っ暗だ。駒津は行動に移る前に灯りの光を強めていた。かなり離れた場所であっても、十分読み取れたと私は思う」 「まだ二十夜だ。月の光も強いだろう」  考えながらこぼした言葉に、門真が小さく首を振った。 「駒津は月の出までに連絡を終えていた。そこまで計算済みなのだと思う」 「周到だな」  北の方角。  そこから、密かに貴透たちはこちらの動静をうかがっている。  上王はシヅマを奪還すると見せかけているだけで、東方連合諸国は動かないと読んでいたが、果たして―― 「将軍。駒津は伝えた後、返事を待つことなくそのまま兵舎に戻った」  将軍の耳に抑えた声が響く。 「不慮の事態を想定して、申し合わせが既になされているのだろう。父からの返答は後日、と言うことなのだと思う」    静かな門真の言葉に、将軍は口を引き結んだ。  さすがは、シヅマの荒鷲と言うべきなのだろうか。  あらゆる状況を考慮して、抜かりなく手はずを整えていたらしい。  それでも、千織がシヅマに戻ってきたことは予想外のことのはずだ。  このまま貴透が見過ごすはずがない。  次の手を打ってくるはずだ。 「貴透がどんな返事を寄越すのか、何としてでも突きとめなくてはならないな」  眉を寄せて、門真がうなずいた。 「駒津がしたように、光で再び伝えてくるのか、それとも別の手段で来るのか――私はそれをずっと考えていた。闇の中で光るものがあれば、夜間の見張りの眼につくだろう。そんな危険な橋を父が渡るだろうか。簡単に相手に露見するような愚を父は犯さない」  言い切った言葉の中には、父親の姿を近くで見てきた者の確信があった。 「光の点滅で何かを伝える――か」  将軍は呟いてから、はっと過去の記憶を思い出す。 「門真」  上ずりそうになる声を懸命に鎮めながら、問いかけていた。 「駒津はどんな風に袖を動かしていた? 見たままでいい、ここでしてくれないか?」
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