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将軍は考え込んだ。
「ならば、駒津の伝言を受け取る先に居るのは、シヅマの者だろうな」
「ほぼ間違いないだろう。駒津は、計画が狂ったことを急遽伝える必要に迫られたのだと思う」
「ということは、北に貴透の配下が忍ばせてあるということだな」
「夜だけかもしれない。それに、シヅマの街の周囲は人家もなく真っ暗だ。駒津は行動に移る前に灯りの光を強めていた。かなり離れた場所であっても、十分読み取れたと私は思う」
「まだ二十夜だ。月の光も強いだろう」
考えながらこぼした言葉に、門真が小さく首を振った。
「駒津は月の出までに連絡を終えていた。そこまで計算済みなのだと思う」
「周到だな」
北の方角。
そこから、密かに貴透たちはこちらの動静をうかがっている。
上王はシヅマを奪還すると見せかけているだけで、東方連合諸国は動かないと読んでいたが、果たして――
「将軍。駒津は伝えた後、返事を待つことなくそのまま兵舎に戻った」
将軍の耳に抑えた声が響く。
「不慮の事態を想定して、申し合わせが既になされているのだろう。父からの返答は後日、と言うことなのだと思う」
静かな門真の言葉に、将軍は口を引き結んだ。
さすがは、シヅマの荒鷲と言うべきなのだろうか。
あらゆる状況を考慮して、抜かりなく手はずを整えていたらしい。
それでも、千織がシヅマに戻ってきたことは予想外のことのはずだ。
このまま貴透が見過ごすはずがない。
次の手を打ってくるはずだ。
「貴透がどんな返事を寄越すのか、何としてでも突きとめなくてはならないな」
眉を寄せて、門真がうなずいた。
「駒津がしたように、光で再び伝えてくるのか、それとも別の手段で来るのか――私はそれをずっと考えていた。闇の中で光るものがあれば、夜間の見張りの眼につくだろう。そんな危険な橋を父が渡るだろうか。簡単に相手に露見するような愚を父は犯さない」
言い切った言葉の中には、父親の姿を近くで見てきた者の確信があった。
「光の点滅で何かを伝える――か」
将軍は呟いてから、はっと過去の記憶を思い出す。
「門真」
上ずりそうになる声を懸命に鎮めながら、問いかけていた。
「駒津はどんな風に袖を動かしていた? 見たままでいい、ここでしてくれないか?」
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