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ようやく眉を解いて門真は呟いた。
将軍は報告を聞き終え、思わず嘆息していた。
「そうか。計画のとん挫が貴透に伝わったか。これからどんな手に出るのか――警戒を深める必要があるな」
溜息と共に呟いた言葉に、再び門真の眉が寄せられた。
「それだが、将軍。私は勝手にこのシヅマの街に戻ってきたつもりだった。しかし、父の謀略のことを考えているうちに、もしや千織の救出に向かうことすら、父が計画したことだったのかもしれないと、不意に思ったのだ」
そこから、門真は自分がその考えに至った経緯を静かに語る。
自分もまた、父に操られているのではないか、と。
「私が無自覚に話したことが、もしかしたら父の計略の一部で、将軍たちを窮地に追い込んでいるのではないかという予感がしてならない」
胸中を伝える言葉は、苦味を帯びていた。
上王は、すでにそのことを見切っていた。
確実に貴透はシヅマの国を奪還に来る――と、自分たちに信じ込ませるために門真は利用された。と。
明瞭に上王は断じた。
「憂う必要はない」
きっぱりと将軍は門真に告げた。
「貴透の意図がどうあっても、こちらが思慮深く対処すればよいだけだ。門真は千織を想う一心で、このシヅマの街に危険を顧みずに単騎潜入した。
その真心が、悪事に変わるはずがない」
つい語気を強めてしまった。さっと千織に眼差しを向け、眠りの深さを確認してから顔を戻す。
「むしろ、そのように疑心を生じさせるのが、貴透の作戦かもしれない。奴の策にはまるな。俺たちは、何があっても揺るがず東方連合諸国と戦えばいいだけだ。
安心しろ、門真。
お前の真心は天もご存じだ。俺も知っている。自分自身を疑うな」
ふっと、門真の表情が和んだ。
将軍は畳みかけた。
「迷いは、過ちを生む。己を信じることだ。大丈夫だ、門真」
言い切った言葉に、門真が微笑む。
「父は奇策を弄する。知らず知らずにそれを恐れていたらしい。そうだな。父がどのような手で来ても、冷静に対応すればいいだけだ。私の迷いを断ってくれて感謝する。将軍」
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