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杭を折る。
という言葉に、千織は瞬きを繰り返した。
「この杭は、竹の刀で打ちこむと折ることが出来るのですか?」
悩んだ結果問いかけた言葉に、ふっと日向が笑みを消した。
「折ることが出来るのではなく、折るのです」
そして、日向は千織に合わせて稽古用に携えてきた竹の刀で、軽く杭を打った。
「同じ場所を正確に打ち続けると、木が削れます」
静かな言葉に、千織はうんうんと頷いた。
「やがて木肌がえぐれて、細くなります――それを続けていると、木は力に耐えられずに折れます」
竹の刀で打ちこみ、木肌を削って細くする。
それを丹念に続けていくとやがてはこの太い杭を折ることが出来ると、日向は明瞭な言葉で告げていた。
「まだこの杭は細い方です。一本折ることが出来たら、次はもう少し太い杭にいたしましょう」
「は、はい!」
思わず千織は返事をしていた。
「よい返事です。焦らなくても大丈夫です。コツコツと続けていれば、いつか木を削り倒すことが出来ます。人は、木よりも柔らかですから」
ふふっと再び笑顔になって日向は言った。
「木を倒せれば人もまた、倒すことが出来ます」
基本的に、戦は外で行う。
なので最初は野外戦を想定した戦い方を身に着けるところから始まった。
室内での戦い方は、また少し違うらしい。
今はとにかく、戦の間中闘い続けられる持久力をつけることが大切なようだ。
千織は荒事をあまりこなさずに暮らしてきたので、稽古場を日向と一緒に走るだけで息が切れた。
その後、竹の刀を使って丁寧に持ち方や振りぬき方を学ぶ。
千織が日向の教えを受けている間中――将軍は以前に宣言したように、側で黙々と素振りをしていた。
しかも稽古に使っているのは、普段腰に差している長剣だった。
佩く刀は、鉄の塊だ。
一度持たせてもらった時、あまりの重さに千織は驚きを隠せなかった。
それを軽々と振るい将軍は自分の身を鍛えている。
集中するその姿をちらりと目の端に捉えるにつけ、自分も頑張らねばと千織は歯を食い縛って日向の稽古を受けた。
「千織殿。腕ではなく腰で竹の剣を扱って下さい。それでは人は斬れません」
基本の型を繰り返している時に、日向が口を開いて注意を施す。
人を斬る。
そのあからさまな言葉に、ドキンと胸が躍る。
「は、はい」
「良いですか。刀は、押し付けただけでは斬ることが出来ません。触れた瞬間に刃筋を立てて、腰で刀を引きます。それでようやく斬ることが出来るのです。竹の刀でも、常に実戦を意識して参りましょう」
「はい、解りました。日向様」
人を斬る、という言葉にまだ胸を轟かせながらも、千織は日向の言葉を守って自分の動きを修正する。
見守っていた日向の顔に笑みが浮かんだ。
「千織殿は呑み込みが早いですね。善きことです」
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