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勇気、再び
――真実を知りたいか。
その言葉には聞き覚えがあった。
そうだ。
一華の着物について話してくれた時だ。
あの時も、将軍は千織に尋ねてくれた。
真実を知りたいのかどうか、を。
受け止めるだけの勇気があるのか問われているようにも思えた。
今も 同じなのだろう。
将軍がどうしても語ろうとしなかった真実。
それを知っても大丈夫かと、自分に訊いてくれているのだ。
千織は胸元に揺れる、翡翠色の封印石の存在を強く感じた。
ふと。
将軍の背後に、大仙窟の深い青の湖が見えるような気がした。
意識が、あの時に戻っていく。
巨大な地底湖の水面を揺らして、姿を現したのは真実を司る女神だった。
自分に真名を与えてくれた女神は、力にあふれ気高く美しかった。
きっと「真実」の本質もそうなのだろう。
厳しく辛いことかもしれないけれど……真のことは、やはり強く美しい。
翠龍を助けてくれた真実の女神に恥じないだけの者になりたいと、瞬間千織は強く願った。
自分は、翠龍の主だ。
従える幻獣のことを、知る責務があるはずだ。
「はい、伽螺様」
勇気を振り絞って、力強く言葉を返す。
「私は翠龍のことを知りたいです」
言い切った千織を、将軍の黒い瞳が映す。
「そうか。知りたいか」
「はい」
もう一度熱を込めて千織は言葉を返した。
いつの間にか体が自然と動き、将軍に向き直っていた。
「翠龍は私の幻獣です。どんなことでも大丈夫です。どうか教えて下さい、伽螺様」
思わぬ強い懇願を、千織は呟いていた。
小さく将軍の頭が動く。
「解った。俺の知っている真実を包み隠さず千織に語ろう。
だが」
淀みなく答えてから、不意に将軍が語調を変えた。
「俺が今から話すことはこの場限りのこととして、千織の胸一つに収めらるか」
極めて真剣な口調で将軍が語る。
「門真にも貴透にも、たとえ上王陛下であっても誰にも漏らしてはならない。出来るか、千織」
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