勇気、再び

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「『トカナ王家の翠龍』と聞かされても、千織は俺に訊ねなかったのだな」  口を閉じ、ごくっと唾を飲み込んでから 「い、以前に伽螺様が――いつかお話して下さるとおっしゃっていたので」  と、衝撃から立ち直りながら何とか言葉を続ける。 「教えて下さる時まで、待とうと思いました」 「そうか」  将軍の手が、千織の頬に触れた。 「疑問に思いながらも、信じて待っていてくれたのだな」  細めた目のまま、将軍が呟く。 「黙っているのはさぞ辛かっただろう。すまなかったな、千織」  千織はぶんぶんと首を振った。 「伽螺様は、約束を守って下さる方です。だから何も辛くはありませんでした」    千織の言葉を耳にして、将軍は浮かべていた笑みを消した。  静かな眼差しで千織を見つめてから、 「これから話すことは、二人だけの秘密だ」  と、囁くような声で将軍は語り始めた。 「千織。古代イソラ王国から別れたアダ、ナヅカ、トカナの三つの王国には、それぞれ守護幻獣がいた。  俺が従える黒龍は、ナヅカ王家に伝えられてきた幻獣だ。前の主は、ナヅカ王の十琉(とうる)陛下だった。たまたま傍流の王家の俺が当代の主となったが、歴代の黒龍の主は王を兼ねることが多かった」  千織は初めて聞くことに驚愕を露わにしてしまった。   「か、伽螺様は、ナヅカ王家のご出身だったのですか!」  思わず叫ぶように千織は尋ねていた。 「千織は知らなかったのだな」 「は、はい。シヅマの国では幻獣のことを話す人は、誰もいませんでした」 「貴透は幻獣を毛嫌いしていたからな」  呟いてから、将軍の手が千織の頬から、自分の黒龍の封印石に動いた。  円環の重みを確かめるように手の平に乗せると 「この黒龍の封印石を身に着けているだけで、知る人が見れば俺がナヅカ王家の者だと解る。三つの王国の守護幻獣は、王家の血筋だけを主と呼ぶ。その血統が途絶えれば幻獣もまた共に滅ぶ。それが、古代イソラ王国時代に俺たちの祖先が幻獣と交わした契約だ」  と千織に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を呟く。 「アダ王家の幻獣、鳳凰は、今はアガツ国の上王陛下が従えていらっしゃる。鳳凰の封印石は龍とは違って腕輪の形になっていて、真紅のとても美しい色合いをしている」  黒龍の封印石から眼を上げると、将軍は真っ直ぐに千織を見つめながら続けた。 「そしてトカナ王家に代々伝えられてきたのが、翠龍だ」
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