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トカナ王家の翠龍――!
門真兄の話は、本当だったのだ。
あまりの話の壮大さに、温かな湧き湯に入っているはずなのに、かたかたと身が震えはじめた。
「トカナ王家の翠龍……ど、どうして、私がその主なのですか? シヅマの領主の息子なのに、なぜ……」
混乱しながら思わず口から滑り出た問いに、将軍が目を細めた。
「もっともな疑問だ。そのことをこれから説明する。いま少し、俺の話を聞いてくれるか、千織」
「は、はい。伽螺様」
動揺を押し殺して、千織はとりあえず話を聞く態勢に入った。
きちんと手を前に揃えて耳を傾ける千織に、将軍は静かに告げた。
「真名を授かった後、千織は前の翠龍の主のことを知りたがっていたな。質問にすぐに答えてあげられなくてすまなかった」
将軍の詫びに千織は再び頭をぶんぶんと振った。
事情があってのことだと、理解していると伝えたかった。
想いを受け取るように将軍が小さくうなずいてから、言葉を続ける。
「千織の前に翠龍の主だった方は、トカナ王家の第二王子。志遠殿下だ」
志遠殿下。
初めて聞く名のはずなのに、耳にした途端、なぜかどきんどきんと急に胸がざわつき始めた。
「志遠殿下が、翠龍の前の主でいらっしゃったのですか?」
「ああ、そうだ。皇太子だった兄君をよく輔け、思慮深く穏やかな気性の方だったと聞いている」
過去を手繰り寄せるような口調で、将軍は呟く。
「千織は覚えているか。以前、俺が九歳で別れた大切な人の話をしたことを」
ぴっと、背を伸ばして千織は将軍と交わした会話を思い出す。
「は、はい。覚えております。ナヅカ王家の直系の姫君で、他国に嫁がれたとか……」
その時は、どうして直系の姫と将軍は顔見知りだったのだろうと、ぼんやりと疑問に思ったが、その理由がようやく理解出来た。
姫君と同じように、伽螺様もナヅカ王家の出でいらしたのだ。
尊敬の念と共に見つめる千織に、将軍がにこっと笑みをこぼした。
「千織は賢いな。よく記憶していた」
褒め言葉を呟いてから、笑顔のままで将軍が続ける。
「他国に嫁ぐように命じたのは、アガツ国の先代の上王陛下だ。その姫の嫁ぎ先が前の翠龍の主、トカナ王家の志遠王子だったのだ」
突然話が繋がって、千織は飛び上がりそうなほどびっくりしてしまった。
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