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千織が居たのは、領主が謁見をする部屋だった。その椅子の前に端座して、アガツ国の兵たちを待っていたのだ。
赤い毛氈の上に座る千織を、男は側まで来ると見下ろした。
彼は、この軍の総大将だ。
判断をつけると、千織は、教え込まされた口上を語ろうとした。
「――アガツ国の将軍様でいらっしゃいますか」
千織の言葉に、微かに若者は眉を上げた。
続きを口にしようとした時
「なぜ、お前しかいないのだ。他の者はどうした」
と、総大将らしい若者が、尊大な口調で問いかけた。
千織は眼差しを上げた。
今、この館内には、千織一人しかいなかった。
館だけではない。
城壁で囲まれた街にも、誰もいない。
領主の父親以下、全ての臣民はこの国を捨てて逃走していたのだ。
アガツ国の侵略が明らかになったのは、数日前。
破竹の勢いで、隣国を侵略してこちらへ向かっていると、早馬が伝令を伝えてきた。青天の霹靂だった。
領主である父親は、素早く判断を下した。
アガツ国は武の国。戦上手で名高い国だ。
武器の備えもない我が国は、アガツ国と剣を交えれば、民草全てが滅ぼされる。
交戦を避け、民を全て移動させようと、父は判断を下した。
畑も所帯道具も全てを捨てて、隣国に逃げると民を説得するのに一日。
次の日には皆は行動に移っていた。
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