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向かったのは、国境を接するマジュタ国だった。
親戚筋に当たり、良好な関係を築いている。父親は急使を送り、返事を待つことなく民らを急きたてて、夜の闇をついて逃亡した。
それから一日半。
侵略の知らせ通り、彼らは千織の国に入った。
開かれた城門と、人気のない街を、きっと彼らは驚きと共に進んできたのだろう。
最後に辿り着いたこの領主の館で――千織は一人、彼らを待っていた。
領主代理として、口上を述べるために。
「アガツ国の将軍様に申し上げます。我らシヅマの民は、アガツ国に逆らう意思はございません。その証として、この館を明け渡し、今また、シヅマの国の領主印を、アガツ国へ奉ります」
側に用意していた、金印を、絹の布を台にして千織は差し出した。
「我らシヅマの民は、アガツ国に逆らう意思はありません」
決して、自分たちの後を追わせるな。
父から厳命を受けていたことだった。
千織はその命を守るためだけに、この館に残った。
「全ての権利をアガツ国に奉ります。どうか、お受け取り下さい」
領主の権利の象徴である金印を捧げたまま、千織は頭を下げた。
アガツ国の侵略は、あまりにも不意打ちだった。
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