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自分が下手に側に居たら、先ほどのように動いて将軍の安眠を妨害してしまうかもしれない。そう判断すると、千織は行動に移った。
優しく握りこまれた指を、しばらくためらってからゆっくりと外す。
手の中に残る温もりを感じながら、千織はそろそろと将軍の腕の中から抜け出した。
将軍は千織が動いても、もう目を開くことは無かった。
それでも将軍を起こさないように用心しつつ、千織はゆっくりと身を動かした。
自分が抜けた後の空間を布団で埋めて、そっと寝台から降りようとして、千織はふと自分の枕元に何かがあるのに目を止めた。
動かしかけた首を戻して、目を凝らす。
それが何かわかった途端、千織は大きく目を見開いた。
『千織へ』という力強い文字で書き始められている――それは、将軍が千織に宛てた手紙のようだった。
驚きの表情のまま、しばらく枕元の手紙を見つめる。
千織は身を捩じったままゆっくりと手を伸ばし、紙料にしたためられた将軍の手紙を手に取る。
ごくっと、つばを飲み込んでからそれを手元に引き寄せた。
両手で大切に持つと、千織は黒々とした墨で書かれた文字を、懸命に目で追った。
『千織へ
昨日はなんの説明もなく、一日部屋で過ごさせてすまなかった。
さぞ不安だっただろう。
だが、賢く一日を過ごしていたようだな。千織が書いていた手紙を見せてもらった。午前中は掃除をして、午後は書と笛の稽古をしていたとは、大変感心なことだ。
戻ってきて、部屋が清々しかったので、たいそう気持ちが良かった。千織が心を込めて掃除をしてくれたおかげだったのだな。
千織の心遣いが、何よりも俺は嬉しい』
最初の文言に目を通して、千織は身の震えを抑えることが出来なくなった。
危惧していた通り、やはり将軍は机の上に残していた手紙に目を通していたのだ。
千織は再び顔が真っ赤になってしまった。
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