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いざ書こうと思い立ったものの、実際には渡すあてはほとんどない手紙だった。
将軍に比べてひどく拙い文字であることも、内容に失礼がなかったかも不安になって、千織は朱に頬を染めながら将軍へ視線を向ける。
将軍は眠り込んでいる。
閉じた瞼は少しも動かなかった。
千織は恥ずかしさに心臓を轟かせながら、それでもせっかく将軍が自分に残してくれた手紙だ、大切に読ませて頂こうと気持ちを切り替えて、寝顔から再びきれいな文字で綴られた手紙へと顔を戻した。
まだ顔から熱が去らないままに、紙料にびっしりと書かれた手紙に目を落とす。
『千織に心配をかけた事件だが、無事に解決をした。安心してほしい。
兵士たちにも、事件のことを知らせてある。もう、千織の身に危険が迫ることは無いだろう。明日からは、いつも通りに千織に過ごしてもらうことが出来ると思う』
将軍の手紙を読んで、千織はほっと安堵の吐息を漏らした。
良かった。
事件は無事に解決したのだ。
自分の身の安全よりも、将軍がもう大変な思いをしなくていいことが、千織は何よりも嬉しかった。
もう一度、将軍の寝顔に顔を戻す。
心からの尊敬と、深い信頼が胸の奥に湧き上がってきて、千織は目頭が熱くなってきた。
伽螺様は素晴らしいお方だ。
心に呟いてから、続きを読もうと紙料に目を戻した。
『書の稽古の手本を、千織が気に入ってくれたのは、たいへん喜ばしいことだ。それが、修練する励みとなるのなら、手本を書いたかいもあるというものだ。
あの手本に慣れたのなら、今度は別の手本も書いてあげよう。
たくさんの文字になじむのは、千織にとって良い勉強になるだろう』
ふと。
読みにくい文字の横には、ふりがながあることに千織は気付いた。
どうりでスラスラと読みやすかったはずだ。
自分の拙い文字を見て、将軍が配慮を施してくれていることに気付く。
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