伽螺様からの手紙

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『千織が書いてくれた手紙を見て、俺は知らず知らずの内に、千織を不安にさせていたのだと教えられた。  前の(ばん)に、夫婦(ふうふ)のことについて話したことで、千織は俺にはアガツ国に(つま)がいるかもしれないと、考えてしまったのだな。せっかくアガツ国に(うつ)()むのを楽しみにしていたのに、千織に迷惑(めいわく)かもしれないと思わせてしまって、すまなかった。  この手紙で、千織の疑問(ぎもん)に答えたいと思う』  奥方がいるかもしれないという千織の不安を、将軍はきちんと読み解いてくれていたのだ。  そして、その答えをこの続きに書いてくれている。  心臓がバクバクと大きく鳴った。  先を読みたいが、もし奥方がいるという言葉が書いてあったらどうしようとためらう気持ちとが、千織の中でせめぎ合った。     救いを求めるように将軍の寝顔に再び顔を向けて、千織は鼓動を必死に落ち着けようとした。  千織を抱き込んだ形のままで、将軍は眠っていた。  疲労の滲む表情を見つめ続けて、ようやく千織は覚悟を決めた。  昨日。  疲労の極みの中で、将軍はこの手紙を書いて下さったのだ。  どんな内容であっても、きちんと受け止めよう。それが、将軍のかけてくれた心遣いに報いるただ一つの方法だ。  潔く心に決めると、手紙に顔を戻して千織は先を読んだ。 『俺は(ひと)()だ。  アガツ国にもどこにも、俺には(つま)と呼ぶ人はいない。これまでもいなかった。妻にする予定(よてい)女性(じょせい)もいない。  だから、安心してくれ、千織。  アガツ国で千織に(さび)しい思いをさせることはないと、ここで(ちか)わせてもらおう』  将軍が丁寧にアガツ国には奥方はいないと書いてくれている。  驚きと理由の解らない感情が身の内側から湧き上がってきて、千織は小さく震えた。  将軍が疑問に答えてくれている個所を、何度も、何度も千織は読み返した。
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