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父親の意図
「将軍」
足早に貴透の謁見の間に戻った彼に、腹心の部下が身を折りながら言葉をかける。
「首尾はいかがですか。貴透の息子は、素直に口を割りましたか」
腹心の部下は、将軍が目的をもって領主の息子を連れていったことを、正確に見抜いていた。
即答を避け、敷かれた緋色の毛氈を踏みながら、謁見の座に向かう。
重厚な椅子だった。
権威を相手に知らしめるような、重々しい設えの椅子に、彼は一言も言葉を返さずに、座る。
ひじ掛けに腕を預け、座った後も、沈黙を守っていた。
その様子を、じっと忍耐強く腹心の部下は見守り続ける。
「貴透は」
長い沈黙を破って、ようやく彼は口を開いた。
「賢い。意味のない策略は立てぬ男だ」
それだけを呟くと、再び沈黙する。
虚空を見つめて、静寂を保っていたが、おもむろに頬杖をつくと、
「それが、息子を一人残した」
と、独り言のように、ぽつんと呟いた。
ふうっと、溜息が彼の口から漏れた。
「何かを含められて、ここに残されたと考えるのが、妥当だろう。だが、どうやら、父親からは我が軍を足止めし、後追いをさせるなとしか、命令されていないようだ。実に底が浅い」
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