奇襲

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奇襲

 千織(ちおり)の腕をとったまま、将軍は真っ直ぐに歩いていく。  迷いのない足取りだった。  廊下を進む将軍の姿を見かけて、人々が波が打ち寄せるように集まってくる。  将軍の側に寄った壮年の人物に、彼は厳しい口調で問いかけた。 「状況は」 「北東方向より、火矢は射かけられたようです」  微かな舌打ちが聞こえた。 「冬のこの時期、風は北から吹き下ろす。風に乗せて、被害を拡大させようとしているのだろう」   もたらされた情報から、彼は的確に状況を読み取っているらしい。  足を少しも緩めずに、言葉を呟く。 「ここ数日、雨は降っていない。シヅマの街は藁ぶきの屋根が多い。そこを狙ったか」 「御意。民家を三軒焼き、火は隣家へと移っております」  ちっと、再び小さく舌打ちが聞こえた。 「消火活動は?」 「火元が屋根の上と高く、また井戸からも遠い場所なので、難航しております」    歩幅の大きい将軍に、ついて行くので千織は精一杯だった。  火を、放ったのは誰だろう。  と、千織は考えていた。  まさか、父親がこのシヅマの街を焼こうとするはずがない。  あれほど街と民を大切にしていた人だ。     
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