待ち人来たる、少女

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2.会話 「あ、落としましたよ!」 「え?」  突然呼びかけられて足を止めると、いつもの少女がいつの間にか背後にいた。 「これ、あなたのでしょ?」 「……あ、うん」  彼女の手にはパスケースが握られている。  どうやら財布を取り出した時に落としてしまったらしく、「ありがとう」と丁重に僕はそれを受け取った。  毎日眺めていただけの存在から突然接触され、少し緊張する。  しかしそんなこちらの心情を察することもなく彼女は踵を返し、いつものベンチへ戻ろうと一歩踏み出した。  その背中を見て、僕は思わず言葉をこぼす。 「誰を、待ってるんですか?」  自分の意志に反して出てしまった言葉を彼女はきちんと聞き取り、少し驚いた顔をしてこちらへ振り向いた。  大きな目を丸くして、心底不思議そうに僕の顔を見つめてくる。    だがそれも仕方のない反応だと後悔した。  僕にとって彼女は毎日見かけていた人物であっても、彼女にとって僕は風景の一部でしかなかったのだ。  赤の他人にいつも見られていた、なんてただ気持ち悪いだけ……。 「……あぁ、あたしいつもあそこに座ってるから。もしかしてここの駅毎日使ってます?」 「あ、えっと……そう。……です」  僕の杞憂をそっちのけに、彼女は「やっぱり」と軽く笑う。 「よく聞かれるんですよ、その質問。『一体誰を待ってるの?』って」  いつも同じベンチに座り毎日毎日誰かを待っているようなその素振りは、他の人間の目にもついていたらしい。  自分一人ではなかったのか、と僕は少し安堵した。 「ま、誰とは言えないんですけど……ある人を待ってるんです」 「それは約束をして?」 「いいえ?」 「え、じゃあそれって待ち損じゃ……」 「それは大丈夫。絶体来るっていうのだけはわかってますから」  だからあたしはその人が来るまで待ってるんです。  そう彼女ははにかんで答えると、いつものベンチへ駆け足で戻って行った。   (……ということは、彼氏とかじゃなくて……有名人?)  僕にとって答えを追究する意味はないのだが、少しわいていた興味が更に膨れてしまったのは……ちょっと困った。
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