210人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
──わたしと、お別れしてください。
落とすように言い放ったその言葉があまりに自然な響きだったせいか、智久さんはわたしを見つめたまま動かなくなった。
何を言われたのかわからない、そんな顔で。
そのあどけない表情だけで、切なさに泣き出したくなるほど愛しさがこみ上げる。
嘘ですと、今すぐへたないいわけをしたくなってしまった。
別れて欲しいなんて言ったそばから、自分がどれほど彼のことを愛しているか思い知らされたようで。
「お前、それ、なんの冗談やねん」
表情とまったく同じ声色で、智久さんは言う。
理解できないあまり、聞き返されるかと思っていたわたしは、何度も言わずに済んだことにほっとした。
.
最初のコメントを投稿しよう!