4人が本棚に入れています
本棚に追加
「とはいえ、マルロー的な『運命』は、たんに人間にたいしてネガチブな作用を及ぼすのみではない。この点が、マルローがこの多義的な概念を使用するひとつの理由になるのだが、『運命』はまたポジチブな力をも孕み、人間をはるかな高みへと飛翔させることもありうる」
以上の一節をノートに書き写していた。
「はるかな高み……」
半ば放心状態。ため息が出る。
今日も大学時代に出会って後生大事に読み続けている本の一節を書き写して、辛うじて精神のバランスを保っていた。
瞬間、やけに癇に障る男同士のおしゃべりが始まった。低いトーンの、この土地独特の東北弁で、まるで何かを牽制するかのような話しぶりだった。いぎたなく人を罵っている様子が窺える。
「毎回毎回、何がそんなに気に入らないんだ……?」
庭の生け垣の上から奇妙な帽子が目に入ってきた。
どうもあの男が扇動しているようだ……。
最初のコメントを投稿しよう!