何故にセリヌンティウスは待ち続けたのか

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 セリヌンティウスは激怒していた。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと考えていた。セリヌンティウスには政治がわからぬ。セリヌンティウスはシラクスの市の石工である。弟子を持ち、石を削りながら暮らして来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。  最初、セリヌンティウスがこの市に住み始めた時は、市もここまで寂れてはいなかった。賑やかな市は、夜になっても人々の笑い声や歌が途切れなかったが、ここ一年程で、市はまったく活気を失ってしまったのだ。王のせいである。 暴君ディオニスは、今では何かにとりつかれたようだった。王の妹婿、自信の世嗣ぎ、妹とその子、皇后とそして賢臣アキレスを殺した。 ここ最近では、市はますます荒廃し、派手な暮らしをしている者には人質を差し出させ、拒めば磔にされるそうである。  一日で六人が殺されたその日、セリヌンティウスは、深夜突然王城へと召された。訳も分からぬままディオニスの面前へと連れて行かれ、そこで彼は、メロスと再開した。 メロスとは、長らくの付き合いである。お互い無二の友と言ってもいいだろう。市で暗澹とした人々を眺めながら弟子達と仕事をする彼にとって、田舎の村に住むメロスからの便りは楽しみだった。 今日、メロスはセリヌンティウスの元を訪れる筈であった。しかし、今彼はセリヌンティウスの目の前で縛られている。きっとあの王の横暴振りを何処かで聞いたに違いない。メロスは、そういう男であった。 メロスから市を暴君の手から救いだそうとしたこと、自分は磔になるが、妹の結婚式を挙げるため、三日の猶予が必要なこと、その人質としてセリヌンティウスが召されたことを聞いて、彼は首肯き、メロスを、佳き友をひしと抱き締めた。二人にはそれで、充分だった。セリヌンティウスは鞭打たれ、メロスはすぐに出発した。そしてセリヌンティウスは、三日間彼をひたすら待つことになった。
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