願い

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祖父はその当時ではまだ珍しく、有名な大学に留学していた。 帰国後は家業の海運会社を継がねばならなかったが、 この時が僕の人生で最良の時だったよ、と 楽しそうに書斎の窓の空を見やるのが常だった。 僕には親友がいたんだ。 その後必ず祖父は微笑みながら続ける。 学ぶことは楽しくて仕方なかったが、自分の国の言葉で 思う存分語り合う人がいないのは、とても孤独だったんだ。 今のように通信が簡単に取れる時代でもない。 彼は国から持って行った薄い本をいつも持ち歩き 表紙がよれよれになっても、 時間が空いた時はその本をむさぼるように読み返していたという。
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