湖底に燈《とも》る仄《ほの》かな灯《あか》り

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毎年8月15日に開催されている「草木湖まつり」では,八木節が山間に響き渡るとダムの底から先祖の霊が呼び寄せられるかのように集まってきた。 その魂は誰にも気付かれることなく,言葉もなく,ただそこに漂うだけだったが,穏やかに子孫たちが楽しそうに踊る姿を眺めているようだった。 会場となる公園では屋台が立ち並び,かつてダムの底に住んでいた住民たちはテントの下に集まり,先祖代々受け継いだ土地を失った者同士で昔を懐かしむように八木節を肴に酒を酌み交わした。 そして祭りの終盤になると約1,000発の花火が盛大に打ち上げられ,その音が渡良瀬川の渓谷に響き渡ると,まるでそれが合図にでもなっているかのように先祖の霊たちがダムの底へと帰っていった。
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