湖底に燈《とも》る仄《ほの》かな灯《あか》り

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そしてその夏の「草木湖まつり」では,数十年ぶりに姿を現した故郷の話で皆盛り上がっていた。 酔いも回り,祭りの参加者たちが花火に備えていると,この辺りでは見たことのないやけに古い着物を着た子供たちが公園の端に立っているのが見えた。 娯楽の少ない山間部で「草木湖まつり」は数少ない楽しみだったこともあり,誰もがどこかの親が子供を連れて遊びに来ているのだろうと思った。 子供たちが立っている辺りは提灯(ちょうちん)(あか)りが届かない薄暗い場所ではあったが,きっとそこが花火を観るのによいのだろうと大人たちは気に留めなかった。 やがて八木節が最高潮を迎え,踊り手たちの熱気が高まると,踊り手たちの身体から汗とともに湯気(ゆげ)が立ち昇り会場全体が薄らと霧に包まれた。
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