湖底に燈《とも》る仄《ほの》かな灯《あか》り

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さっきまで酒を呑み騒いでいた住民達はみな無口になり,年配の者達は静かに泣いていた。 花火の爆音と眩い光を全身に浴びながら,数十年ぶりに現れた故郷とそこにいた先祖とともに過ごす時間を少しでも長く共有したいと願い,先祖たちの邪魔にならないようただただ黙って夜空を見上げた。 そして花火が終盤に差し掛かると,公園の端にいた大人たちは子供の手をひいて1人また1人と暗闇に消えて行った。 元住民にとってその後ろ姿は,かつて自分たちが幼かったころに親に手をひいてもらい村祭りを楽しんでいた姿のようにも見えた。 花火が終わるころになると会場では,すすり泣く声と鼻水をすする音しか聞こえなかった。
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