湖底に燈《とも》る仄《ほの》かな灯《あか》り

9/10

31人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
ちょうど花火が終わるころ,みどり市役所の職員がダムの底で懐中電灯を片手に見回りをしていた。 職員も初めて見るダムに沈んだ村の形跡を懐中電灯で照らしていると,草木駅の駅舎がぼんやりと明るくなっているのが見えた。 誰かが建物に入り込んでいるのかと思い,近づいてみようとしたが水位が下がったとはいえ駅舎まで歩いて近づくことはできず,そこに人が入り込むことは不可能だった。 呆然としていると,次から次へと子供の手をひいた大人たちが駅に吸い込まれるように入って行くのが見えた。 そして駅のホームに大勢の人達が静かに電車を待つように立っているのが見え,職員は怖くなり音をたてないように細心の注意を払いながら慌てて逃げ出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加