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そんなことを思いながら、僕は自分の席に着いた。
数学の授業が始まる。教壇の教師が熱弁をふるう。
松村は前から二番目だ。先生の目がよほど悪くない限り、顔くらいは十分に見える。
それとも何か?
集団催眠のようなものにかかって、生徒も教師も松村の顔を見ない、あるいは気づかないふりをしているのか?
そう思った瞬間、僕はあることに気がついた。
教師に顔を突き合せている一番前に座る人間、
全ての中心に位置している人間、
それは伊澄瑠璃子だということを。
彼女の姿を改めて認識した瞬間、僕の体を生暖かい空気がすり抜けていった気がした。
それは五月らしくない、湿気た空気だった。
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