兆候と誘い

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 僕の声に小柄な佐々木が僕を見上げ、そして神城に目を映し「涼子、屑木くんに何かされたの?」と訊ねた。人聞きの悪い。  神城は「違うのよ」と答えて、一連の経緯を佐々木に説明した。 「ふーん。あの屋敷ねえ」と言って、 「結局、お二人で屋敷探検に行くの?」と僕たちの顔を見比べながら訊ねた。 それに対して神城は、 「それがさ、屑木くん、怖がりでね」とくすっと笑いを堪えるように佐々木に言った。  そう言われてむっとした僕は、 「怖がりよりも、子供みたいに探検ごっこをしようと誘うのもどうかと思う」と抗議した。  僕がそう言うと、神城は椅子の音をガタンと立て、 「子供みたいって、なによ」と大きく言った。  神城はこんなにも怒りっぽいのか。  佐々木奈々は僕たちに「お二人さん、まあまあ」となだめ、 「それよりね、今朝の新聞見た?」と話題をし始めた。  神城が「見たけど、奈々、何か面白いのあったの」と尋ねた。 「この町、神戸市東灘区の人口が異常に増えているらしいのよ」 「奈々、それ、新聞の折込の区民便りだよね」と神城は佐々木に確認して「あれ、いつも読まないのよねえ」と言った。 「それが、ちょっと面白いのはね」佐々木はそう言って薄気味悪い笑みを浮かべて「住宅はそれほど増えていないのに、人口だけが増えているんだって」と言った。  神城は、「それって、子供をたくさん産んでいるんじゃないの? いいことよ」と微笑んだ。  住宅が増えていないのに、人口が増えている。  東灘区の統計課もちゃんと仕事をしているんだな。
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