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奥の部屋に伊澄瑠璃子の両親がいる、というのは嘘だったのだろう。
だが、伊澄瑠璃子は、こう言った。
「正確には、ここが私の家だったのよ。あの事件の時も」
ここが、家だった・・あの事件の時も。
伊澄瑠璃子はさっき言っていた。それはお姉さんのことだ。
伊澄瑠璃子の姉を妬み、裏切り、知人の男に性的暴行をさせた友人とは家が隣同士だと言っていた。
その女友達は、今でもこの家の隣に住んでいるのか? 家が隣同士というのが気になる。
「知っていたよ」渡辺さんが当然のように言った。
渡辺さんは、伊澄瑠璃子が張っていた結界に気づいていた。そして、ここが昔、伊澄さん姉妹が住んでいた家だということも知っていたというのか?
これまでの渡辺さんの言動は全て芝居だった。
べた、べた、と音がした。そして、ずる、ずる、
何かを引き摺るような音。間近に聞こえる。
だが、どこにも見えない。
それよりも、今の僕たちの取るべきことは、ここから出ることだ。
得体の知れない物を見ることではない。
危険だ。神城も君島さんも。
神城が「屑木くん、気味悪いわ。早く出ましょうよ」と僕の腕を引いた。
そんな僕たちを引き留めるように、伊澄瑠璃子がこう言った。
「屑木くん、もうすぐ、さっきお話した、私の姉の物語の続きが見れますわ」
伊澄さんのお姉さんの物語の続き?
「醜いものは嫌いだ。恨み、嫉妬、全てが醜い」
そんな伊澄瑠璃子の思念が流れ込んきた。
「来たわね」
伊澄瑠璃子が天井を仰ぎ見た。
同時に、渡辺さんが不気味な声で笑い始めた。
まるで、何かの出来事を二人とも予め知っていたかのようだった。
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