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「神城、うしろ!」神城に注意喚起した。
僕の呼びかけに神城が、君島さんに抱きつかれている僕に駆け寄ってきた。
「屑木くん、何よ、あれは?」
ぶらりと垂れたそれは、ゆらゆらと揺れている。
そして、神城は「あれ・・目が付いているわよ」と言った。
確かにヌルヌルした表面に小さな粒のようなものがあり、それが辺りを伺うようにきょろきょろと右に左にと動作を繰り返している。まるで潜水艦の潜望鏡のようだ。
僕たちを見ているのか?
いや、違う。おそらくあれは本体ではない。本体は天井の上にいる。
渡辺さんが天井を仰ぎ見た。
その天井は、大きくたわみ、垂れ下がっている。何かの重みだ。
「出て来いよ、サヤカ!」
何かの合図のように渡辺さんが天井に向かって呼びかけた。
サヤカ?
渡辺さんの声に応じるように、
「はあああっ」と、大きく呼吸する声が響いた。まるで洞窟の中から出てくるような深い闇のような声だ。
神城が口を手で覆い、叫びそうになるのを堪えている。君島さんの両腕が僕の胴を締めつける。
「サヤカは、隣の家で、ずっと出番を待っていたんだよ」
渡辺さんは笑いを堪えきれないような口調で言った。
天井から、垂れ下がっている触手に続いて、ドロリと本体のような物がゆっくり降りてきた。「あれ」だ。ボタボタと液体が垂れている。
だがそれは単独で移動する自立歩行型の「あれ」でもなく、
人間に宿る小型の「あれ」でもない。
人間の体を食い尽くし、人間と同化しようとしている生命体だ。
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