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そして、渡辺さんがここに来た目的。それは、この女性の状態がこの先、どうなるかを伊澄さんに訊きたかったのだろう。
さっき伊澄さんは、渡辺さんの問いに、
「いずれ、体に宿っているものに体を奪われる」と言っていた。
まさしく、その状態がこれだ。
僕の横で神城が腰を抜かし、その場にへたり込んだ。何か言おうとしているが、声にならない。君島さんは僕の背中に顔を押しつけている。
そして、神城が言った。
「屑木くん、私、体が動かない」
君島さんも「やだ、私もだわ・・」と訴えた。
誰かがそうしている。この状況では誰が催眠をかけているのかわからない。
そんな中、
「懐かしい人のご登場ね」
伊澄瑠璃子はそう言って冷やかに微笑を浮かべた。
懐かしい人? 伊澄さんの知っている人間なのか? いずれにせよ、この生命体は僕らの敵であることは間違いないだろう。
だが、伊澄瑠璃子はこんな状態の中、少しも動じていない。
その理由なのか、化物の動作が異常に遅い。「あれ」との同化がここまでくると逆に身動きがとれなくなるのだろうか。
そして、渡辺さんは僕らに向き直り、
「紹介しよう。僕の妹のサヤカだ。渡辺サヤカだよ」と言った。
「君たちに分かりやすく言うと・・サヤカは、伊澄さんの姉の女友達だよ。それが、僕の妹だ」
伊澄さんのお姉さんの女友達・・
伊澄さんのお姉さんの美貌を妬み、山の中で男に強姦させた女。
その女の兄が、渡辺さんだったのか。
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