もう一人の来訪者

4/7
前へ
/1262ページ
次へ
 そして、渡辺さんがここに来た目的。それは、この女性の状態がこの先、どうなるかを伊澄さんに訊きたかったのだろう。  さっき伊澄さんは、渡辺さんの問いに、 「いずれ、体に宿っているものに体を奪われる」と言っていた。  まさしく、その状態がこれだ。  僕の横で神城が腰を抜かし、その場にへたり込んだ。何か言おうとしているが、声にならない。君島さんは僕の背中に顔を押しつけている。  そして、神城が言った。 「屑木くん、私、体が動かない」  君島さんも「やだ、私もだわ・・」と訴えた。  誰かがそうしている。この状況では誰が催眠をかけているのかわからない。  そんな中、 「懐かしい人のご登場ね」  伊澄瑠璃子はそう言って冷やかに微笑を浮かべた。  懐かしい人? 伊澄さんの知っている人間なのか? いずれにせよ、この生命体は僕らの敵であることは間違いないだろう。  だが、伊澄瑠璃子はこんな状態の中、少しも動じていない。  その理由なのか、化物の動作が異常に遅い。「あれ」との同化がここまでくると逆に身動きがとれなくなるのだろうか。  そして、渡辺さんは僕らに向き直り、 「紹介しよう。僕の妹のサヤカだ。渡辺サヤカだよ」と言った。 「君たちに分かりやすく言うと・・サヤカは、伊澄さんの姉の女友達だよ。それが、僕の妹だ」  伊澄さんのお姉さんの女友達・・  伊澄さんのお姉さんの美貌を妬み、山の中で男に強姦させた女。  その女の兄が、渡辺さんだったのか。  
/1262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

292人が本棚に入れています
本棚に追加