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「んぐふううっ」
そのサヤカという女が咆哮を上げた。獣が上げるような声だ。およそ人間の雄叫びとはかけ離れている。その形状も、もはや人間と呼べるものかどうか。
長く伸びた腕を触手のように空中に舞わせている。おまけに、体のあちこちから何かの液体が吹き出ている。
渡辺さんは妹の紹介を終えると、
「妹の中の『あいつ』はね、すごく成長しているんだよ。あの大崎という奴のとは大違いだ」と自慢なのか、悲劇の告白なのか、どちらともとれる口調で言った。
そんな渡辺さんの言葉を打ち砕くように伊澄瑠璃子が言った。
「あら、でも妹さん、骨がほとんど溶けているようね。腕には、もう骨がなくなっているようよ」
あの触手のような腕は、中に骨が無いせいで、あれほど長く、ぶらぶらとさせているのか。
神城は「じゃ、奈々もいずれ、こんな体になるっていうの?」と絶望的な口調で言った。
すると、サヤカが、初めて言葉のようなものを発した。
「・・レミ」
くぐもった様な声で、はっきりとは聞こえないが、「レミ」と確かにそう聞こえた。
「レミ」というのは、人の名前なのか?
そのサヤカの声を受けて、伊澄瑠璃子が口を開いた。
「レミというのは、私の姉の名前よ」
そう言って、少し悲しげな表情で、
「伊澄レミ・・私が大好きだったお姉さん」と続けた。
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