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ある日先輩の看護師さんに休憩室へ呼びだされた。
なにかまずいことをしてしまったのだろうか?焦燥感に駆られながら休憩室へ向かった。
「結城さん、私も時間ないから手短に済ませるけど……」
「はい……なんでしょう」
「これ、何だと思う?」
彼女は私の前にカッターナイフを差し出した。
「はい……カッターです」
「園田さん今傷を治療してるけど、何でだと思う?」
しばらく目を伏せて考えていた。
「あの……もしかしたら」
「そう、あなたの仕事が終わった後に貸し出していたカッターナイフ。幸い傷は深くないけど、あなたどういうつもり!?」
「すみません……」
「すみませんじゃ済まないから」
彼女は手短に済ませると言ってたけど、その後は手短どころではなかった。
園田さんはある時クラブ活動で刃物を使って見事な版画を作って見せた。それが高じてたびたび私から刃物をせびりにきたが、刃物を使用できるのは誰かの監視の目があったときだけだった。おかしい。作業後私はたしかにカッターナイフを園田さんから受け取ったはずなのに……でも看護師さんが差し出したカッターナイフは確かに私が貸し出しを許可したものといっしょだった。
その日は仕事を終えて帰ろうとしていた。
「結城さーん!」
突如張りのある声で呼ばれた。
「はーい」
返事をして声のほうに近づく。だれもいない。
「結城さん」
また別なところで声がするので行ってみるが、まただれもいない。
「結城さん」「結城さん」「結城さん」
声が増殖していく。うっすら冷や汗が出てきた。いったいだれなんだろう?気味が悪くなって小走りで廊下を駆けた。すると目の前に黒い影が現れた。
「やっ」
「お?姫!姫ではありませんか。いかがなされた?」
「や、なんだ、大島さんか~」
「どうしました?だいぶお心が乱れているご様子ですが」
「なに言ってるんですか!いたずらの張本人のくせに」
「は?私がいたずら?滅相もありません。私はただこの廊下を歩いていただけで」
大島さんは真顔で答えている。とても嘘を言ってるようには思えない。私は思わず大島さんの体に身を寄せていた。
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