2人が本棚に入れています
本棚に追加
私は必死に声を上げようと喉を引き締めるのだけど、ひゅうひゅうというふいごの様な呼吸をするので精一杯だった。
「おね~ちゃん」
女の子が甘えた声で私を呼んだ。それを合図に足元に巻きついた髪が開いたドアへと吸い込まれていく。
嫌だ。死にたくなんかない。想いとは裏腹に扉は近づいてくる。闇の中の顔は興奮する様子を微塵も見せずじっとりとした眼差しを私に向けている。嫌だ。あの闇の中に加わるのは嫌だ。お願い。誰か助けて。私は生きたい。
瞬間「姫~!」という言葉を鼓膜が捉えた。
「姫!ご無事でしたか?私の腕におつかまりください!」
私の意識は朦朧としていた。もはや現実感は薄く、映画を見ているようだったが、必死で右手を伸ばした。
お互いの手が空を掴み、あらん限りの力で手を前に伸ばす。そして逞しい腕が私の右手を捉えた。大島さんは獣の咆哮のような声を上げ、私を引っ張り上げてくれた。
「よかった。よかった」
震える手で私の体を覆う。涙ぐみながら私を見つめる瞳は女の子を取り巻く闇の中の顔の瞳とは対極にあった。
「どうして私たちの邪魔するの」
呼吸は荒いが大島さんは冷静さを取り戻していた。
「魔(あやかし)め!自らの住処へ帰れ!!」
「許さない」
女の子が毅然とした調子で言うと。闇の中の顔が「許さない」「許さん」と声を増殖させている。
私は力を振り絞って言った。
「大島さん、逃げよう」
聞こえたのか聞こえないのかわからないが、彼は私を背にして
「我が姫を殺めるものはたとえ如何なるものでも許さん!魔(あやかし)よ。いざ尋常に勝負!」
最後に私の目が捉えたのはのは雄雄しく魔(あやかし)と対峙する大島さんの背中だった。
最初のコメントを投稿しよう!