第一章 亡失都市での調べ物

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マカボルンは“どんな願い事でも叶う”と言う伝承があることから、高い魔力を持ち、そのような現象を引き起こせるのではないか・・・と、考古学者は言う。  しかし、先程ミヤが「魔物」や「人の魂」という言葉を口走っていた。マカボルンが見せるのは「滅亡前の街」ではあるが、この幻に映る人間の数だけ、この都市には死者の魂がさまよっている。おそらくさまよっている理由は、この世に未練を残して死んでいったトウケウの人たちが成仏できないからだろう。死者の魂がさまようと、時間と共にその姿は魔物に変化し、何かを求めるように生きとし生けるものに襲い掛かる。“マカボルンがある”とわかっているのに誰も見つけられないのは、この街を覆いつくすくらいの魔物・・・いや、人々の魂がさまよっているからだろう。一方、この街について学者達が唯一つ不可解なのは「魂だけの存在は壁を通りぬけることもできるのに、ほとんどの魂がこの都市から離れようとしない」ということだけである。 「ミヤ、本当の初対面だったのに、脱出の手伝いをしてくれてありがとう・・・。助かったよ」 「別に、あなたのためにしたわけではない。・・・そろそろ行くわ」 そう言って去ろうとする彼女を見て、俺は飛行中に考えていた事を口にする。 「俺・・・君にお礼をしたい!!だから、旅に同行させてくれないか?」 そう告げると、彼女はその場で動かそうとした足を止めた。 「・・・ツレは必要ない。馴れ合いをする気はないわ」 この台詞を言ったとき、彼女の凛とした表情が少しこわばっていたのである。 「いや、俺もう決めたら!!」  ギルドの仕事とはいえマカボルンについて調べていたわけだから、何か知ってるかも・・・とも考えたが、一番の理由はなんだか放っておけない雰囲気を感じたからだ。 「馴れ合いする気はない」と、言ったからには何か事情があるのかもしれない。しかしそれでも、一人よりも二人旅の方が断然、楽しくもあり頼もしくもあるのも事実だ。 「じゃあ…この資料を届けるまで…ね」  黙って着いてくる俺に対し、ミヤが小さな声で呟く。 それを聞き取った俺は、とても嬉しかった。 まさか、これが運命の出会いだとは知らず、俺達は亡失都市トウケウを後にするのだった。
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