第二章 ケステル共和国

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「そういえば、その本は依頼人に渡しちゃうんだろ?・・・渡す前に少しだけ見せてもらうことってできないかな?」 「・・・・・・見てどうするの?」 「その・・・俺もマカボレンについて調べているんだ。せっかく持ち出せた資料だし、参考がてら見てみたいなって思って・・・」 一瞬の間があき、その場に立ち止まったミヤは、こちらに振り向く。 「やっぱり、この本が欲しくてついてきていたのね」 「え・・・?」 「・・・自分の利益のためなら何でもする。私に言った言葉(こと)だって、全部嘘なんでしょ?」 歩く向きになってから、ミヤは話を続ける。 「所詮、人間なんてそんなものよ。過去の歴史には興味ないけど、トウケウもそんな愚かな人間ばかりだったから滅びたんじゃない?」 その台詞を聞いた途端、何かこみあげてくるものがあった。 俺は無宗教だから、民族意識が高い訳でもない。だが、一人に人間として胸を張って生きてきたのは事実――――――そんな自身の考えを全否定しているようで、どこか哀しいとすら感じてしまう俺がいた。 そのためか思わず駆け寄り、俺の右手は彼女の左腕を掴んでいた。 「確かに人間は自分の利益しか考えない部分もあるけど、それだけが全てじゃない!…君だって人間じゃないか!!」 「触らないで…っ!!!」 振りほどこうとするミヤを目の前にして、俺は初めて彼女の顔をしっかり見た。 漆黒の瞳に光を感じず、顔は正面を向いているのにその瞳には自分が映っていないようだったのである。 かつて盲目の人間を見た事があったが、彼女のような瞳をしていた。 気がつくと、ミヤは俺の腕を振り払い「さようなら」と言ったかと思うと、走り去っていったのである。 彼女が怒ったのは自分のせいだけど、間違ったことを言ったつもりはなかった。 「何故、あのような言い方をしたんだろう…?」 俺は一瞬、心の中の声を口に出していたのである。
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