第二章 ケステル共和国

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※ 迂闊だった… 彼――――セキとの会話中、柄にもなく感情的になったからか。 『君だって人間じゃないか!!』 彼の言葉が、私の脳内をかけめぐる。 自分は人間ではあるが、ただの人間ではない。わかりきっている事なのに、その台詞を言われた時に何故か胸が痛んだのである。 …なぜこんな気持ちなんだろう…? そんな想いが芽生えた私だったが、感傷に浸っている場合ではない。あれから妙な男達に拉致され、馬車で何処かに連れて行かれている。 「お前はうちで知らなくて良い事まで知りすぎた。…しかし、ただ始末するだけではつまらないから、面白い所に連れて行ってあげよう」 私の耳元で、依頼人が囁く。 腕を縛り、猿ぐつわをされて目隠しもされた状態なので、周囲は何も見えない真っ暗であった。最も、私は目が見えないので目隠しは無意味な行為だが、彼らは自分が盲目だという事を知らない。 刀も取り上げられてしまったため、抵抗する事もできないのが現状だ。ただおとなしくしているしかない状況に対し、屈辱的な気分を味わっていたのである。 そして、依頼人の手が目隠しを取り、私の頬に触れる。 「この白い肌と華奢な身体…。この漆黒の瞳は意外性を感じるが、さしずめ今後は鑑賞用か“ねこ”に使われるだろうね」 そう告げる依頼人の表情は、見えないがおそらくは不気味な笑みでも浮かべているだろう。 私はこの国のギルドに所属していたが、ある日この依頼人からの任務をこなした事で気に入られたのか、何度も私に依頼するようになっていた。 怪しい雰囲気は感じてはいたが、報酬(ギャラ)も良かったという理由から続けていた。しかし、彼らは裏で殺人・恐喝・買収・裏取り引き等、国の目を盗んでいろんな犯罪を犯していた事を知ってしまう。 こういう時、相手の表情が見えないのはつらい… そう考えていると、突如馬車の動きが止まった。 「到着いたしました」 馬車の運転手らしき男の声が聞こえてくる。 すると、依頼人は私の口にハンカチのような感触を持つ布をかぶせる。おそらく、睡眠薬のような薬品が染み付いているものだろう。それに気付いた途端、徐々に意識が遠のいていくのであった。
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